米景気「強すぎず、弱すぎず」ほど良い加減が継続

 今年に入って、多くのエコノミスト・ストラテジストにとって最大のサプライズ(驚き)は、米景気が想定以上に堅調なことです。

 年初の市場コンセンサスでは、米景気は今年「かなり減速する」見通しでした。「米景気減速が鮮明になり、米国株は反落。FRB(米連邦準備制度理事会)が利下げに転じ、円高が進む」という見方が、市場コンセンサスでした。

 ところが、米景気が想定以上に強いため、米国株の上昇が続き、米利下げが遠のく中、円安が進んでいます。米景気は「強すぎず、弱すぎず」米国株にとって都合の良い景況が続いています。

 ただし、景気は循環します。いつまでも良好な景況が続くことはありません。いつか必ず、景気悪化局面が来ます。そこで、今日は、「米景気が次に後退局面に入るのはいつか?」考えることにします。ただし、それを考える前に、そもそも米景気が今年かなり減速(悪化)するとみられていたのに、そうならなかった理由を考えます。

米景気の経験則は外れたのか?

 今年、年初に、米景気がかなり減速するとみられていた理由として二つあります。

【1】米国の長短金利が逆転してから1年以上が経過

 米景気は、長短金利逆転から1年以上経過した後に後退期に入ることが多かったので、不安が生じました。

【2】コロナ禍で生じた過剰貯蓄が解消

 2020年にコロナ禍で消費が抑え込まれた反動から、2021年には米国でリベンジ消費が盛り上がりました。2020年に家計に過剰貯蓄ができたことも寄与しました。2020年の消費抑制と、コロナ関連で巨額の給付金が出たことが、過剰貯蓄を生みました。

 それを使って、2021年に消費が過熱しました。ところが、その後、過剰貯蓄も吐き出し、リベンジ消費の反動で消費が減速しました。

 以上、まとめると、過剰貯蓄がなくなり、インフレと金利上昇の影響で、2024年には米国の消費が失速するとみられていました。ところが、現時点で、そうなっていません。

米国の長短金利が逆転してから、米景気の見方が錯綜

 2022年秋に米国の長短金利逆転が起こった後、米景気について強気弱気の議論がどう推移してきたかを振り返ります。まず、以下の資料をご覧ください。

米国の長短金利(10年金利とFF金利)推移:2021年12���末~2024年7月8日

出所:ブルームバーグおよびQUICKより楽天証券経済研究所が作成

 2022年から2023年にかけて、FRBは過去に例のない急激な利上げ(FF金利誘導水準の引き上げ)を行いました。「米景気を犠牲にしてでもインフレを抑える」スタンスでした。そのため、2022年秋には長短金利逆転が起こりました。

 そこから1年経過した2023年秋には、「そろそろ米景気悪化が始まる」との不安が出ました。2024年の年初には、米景気が「いよいよ後退期入りする」か、「かなり減速するものの後退期には入らず持ち直すか」議論が分かれていました。

 私は、「かなり減速するが後退期入りはしないで持ち直す」いわゆるソフトランディング(軟着陸)を予想していました。米景気は、今のところ、私の予想以上に堅調に推移しています。

 コロナショック後、米景気がどう変化してきたか、四半期別のGDP(国内総生産)成長率から見てみましょう。

米国のGDP成長率の推移(四半期別・季節調整済み・前期比年率%):2018年1-3月期~2024年1-3月期

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所が作成

 四半期別のGDP成長率を見ると、2022年の1-3月期と4-6月期が、2四半期連続でマイナスとなっています。いわゆる「テクニカル・リセッション」【注】の状態です。

【注】欧米では、GDPが2四半期連続でマイナスだと原則リセッション(景気後退)とみます。ただし、それだけでリセッションが確定するわけではありません。米国の2022年前半は、2021年後半の高成長の反動で少し下がっただけで、年後半には高い成長に戻っているので、ここはリセッションとはみられませんでした。

 米国のGDP成長率は、2022年前半にマイナスになった後、2022年後半から2023年にかけて持ち直し、再度、成長率が高まっていきました。つまり、GDP成長率で見ると、2022年前半がもっとも景況が悪く、その後景況は改善していったことになります。

 FRBが利上げピッチを加速したのは、2022年の後半からです。そのために、長短金利が逆転したのは、2023年の秋です。長短金利逆転によって、米景気が悪化する不安が語られていましたが、実際には米景気は2022年の後半から2023年にかけて、逆に持ち直していったことが分かります。