トップコミットメント

私たちの強み・DNA

独自のビジネスモデルのもと、クリエイティビティを発揮する

メッシュ型の交通ネットワークと循環再投資

東急株式会社
取締役社長

当社は2022年9月2日に創立100周年を迎えました。ここまで支えてくださったステークホルダーの皆様に感謝申し上げます。

創業以来100年、当社はTOD(Transit-Oriented Development※:公共交通指向型都市開発)と呼ばれる手法でまちづくりを進化させてきました。網の目のように張り巡らせた鉄道とバスの交通ネットワークを形成し、沿線を中心としたエリアから得た収益の循環再投資によって継続的に街をバリューアップさせていく。これこそが当社のビジネスの根幹です。この沿線を中心とする「面」で都市開発を行い、長期視点で生活を豊かにする多彩なサービスを提供することで、当社はお客さまからの支持を得てきました。

街とは、一度つくり上げたらそこで終わりというものではありません。時間の流れや人々の生活スタイルに応じて、ソフトとハードの両面から絶えず時代に合わせて変化させていくべきものだと考えます。とりわけ沿線密着型の当社は、街の価値を向上させ続けるということに並々ならぬ想いを抱いています。沿線のバリューアップは当社の利益のみならず、不動産を所有する方や沿線でビジネスを行う方々にとっての価値創造にもつながります。

今後は循環再投資をさらに加速するための施策を打つことで標準的な不動産事業以上のリターンを稼ぎ出し、そこに各事業とのシナジーに加え、そのアウトパフォーム幅を大きくしていきます。そして、そこで得た資金を沿線に再投資する。こうした独自のビジネスモデルによって街を発展させ続け、この投資サイクルを早めることで、刻々と変化する外部環境に対応するとともに、お客さまに喜んでいただけるまちづくりを推し進めていきます。

   

大切にするべきDNA

さらに、当社を語るうえで欠かせないものが、「クリエイティビティ」です。歴史を振り返ると、約100年前、東京都市部の住環境悪化が進む中で、当社は東京郊外に鉄道を敷き、住宅地を開発することで、郊外の緑豊かな住宅地から都心へ電車で通勤するという生活スタイルを世に提示しました。暮らす人々の目線に立ち、スーパー、病院、大学など、それまでになかった生活利便機能を充実させるまちづくりは非常に斬新なものでした。お客さまはどのような暮らしをしているのか、駅前のスーパーに何を求めているのか、といったことを注意深く観察し、豊かな生活環境をつくるために必要なモノ・コトを徹底して研究し想像する。そのためには、クリエイティブな思考や行動が欠かせないものであり、もともと私たちのDNAに備わっているものです。

私自身、これまでに従事してきたさまざまな業務において、このような視点の重要性を学んできましたし、今、従業員に対してもクリエイティビティの大切さを強く発信しています。創業以来培ってきた斬新でクリエイティブな発想を改めて思い起こし、さらに大きく飛躍していく。その意志を込め、私の名刺には「クリエイティブ・ディレクター」の文字を刻んでいます。

私は、五島昇元会長の「向こう傷は男の勲章」という言葉に憧れて当社に入社しました。今日的に言い換えると、「向こう傷はビジネスパーソンの勲章」でしょう。失敗を恐れずにチャレンジする。もし失敗したならば、そこでしっかりとノウハウを蓄積し、再びチャレンジする。こうした共通の価値観のもと、新たなソリューションを生み出すことができる企業集団をつくり上げていきます。


※TOD(Transit-Oriented Development):TODとは、1993年に米国の建築家ピーター・カルソープが提唱した、自動車脱却社会を目指し公共交通を指向する都市づくりの概念。「沿線」型TODは、TODが世界的に着目される以前から、都心への人口集中に対応した健全な街の成長へと導くため、公共交通の利用を前提として、ターミナル駅および周辺開発とともに交通と郊外住宅地・都市開発の一体整備を行う日本独自の開発モデルであり、当社グループはこれを引き続き深化させてまいります。

    

中期3か年経営計画(2021年度-2023年度)進捗

需要回復を確実にとらえ、増収増益を実現

環境変化への対応が実を結び始めた1年

     
 

2022年度は、経済の回復期にあって企業の復元力が試される1年となり、交通事業やホテル・リゾート事業を中心とした需要回復を背景に増収増益を果たしました。2023年5月の新型コロナウイルス感染症の5類への移行にともない外出の機会は増え、インバウンド需要も回復しています。今後は、この変化をいかに事業機会につなげていくかが焦点となります。

この中計期間、収益復元に向けた構造改革を着実に積み上げてきました。目下の課題としては、建設資材やエネルギー価格の高騰、建設業従事者の減少などを背景とする建設コスト上昇への対応があげられます。これについては、プロジェクトの用途変更や行政との連携など、各種施策を打つ必要があると考えています。一方、このような課題を抱えているのは当社に限ったことではなく、今後、着工を遅らせたり、取りやめたりといった判断を行う企業も出てくると予想されます。当社としては、中長期視点に立って適切なタイミングで供給できるようマーケットの状況を注視しながら、需要を確実にとらえていきます

また、東京都心のマンション価格が高騰する中にあって、価格を抑えた住まいの提供も必要になります。例えば駅前から少し離れていたとしても、東急バスなど利便性の高い二次交通を利用することで暮らしやすい住環境を実現することも可能でしょう。当社の交通ネットワークを最大限に活用し、利便性や価格など、複数のニーズを満たすことができる住宅の提供にも取り組んでいきたいと考えています。

 
 

企業価値の向上に向けて

事業間のシナジーをキーに、創出価値を最大化する

グループシナジーを生み出す

今後の成長を描くにあたり、現在開発が進む渋谷などの大型開発に加え、既存事業のポテンシャルに目を向けています。大型開発は収益化までの期間が長くなることから、その間を支えるためにも既存事業の安定化は不可欠です。しかし、各事業への期待はそれだけに留まりません。お客さまのニーズにこまやかに対応することにより個々の事業はまだまだ成長を続けることができる、というのが私の見解です。

その鍵は、事業間連携にあります。多彩な事業を展開する当社ならではのシナジーによって、新たな価値をつくり出すことができるのではないか。すでにホテルとエンターテインメントを融合させたサービスの提供も始めており、社内では事業の壁を越えて連携を強化していこうという機運が高まっています。事業と事業をつなぐことは、経営の役割です。この流れを増幅させるべく、今後も手を緩めることなく指揮をとっていきます。

今後の社会を見据え、固定運賃という制度に代わるダイナミックプライシング等について、選択肢の1つとして積極的に検討していきます。また、利用回数に応じて割引還元できれば、「回数券」が無くなる日もくるかもしれません。ライフスタイル・ワークスタイルの変化を受け、お客さまの利用状況に合わせて価格を変動させるなど新しい商品設計を考えてまいります。

地域社会とともに街をつくる

まちづくりにおいては、沿線のお客さまとのつながりをさらに強化します。当社は多摩田園都市や渋谷を筆頭に、直近では自由が丘や綱島などにおいて地域ステークホルダーと良好で長期的な関係構築を進めています。また、開発から相当な期間が経過し、地権者をはじめとする地域の皆様との関係が薄まっている、もしくは関係が持てていないエリアでは、その強化が必要だと認識しています。行政や地域住民などのステークホルダーとの対話を通じて、改めて街のニーズをリサーチし、お客さまが真に望むまちづくりを行う。その際、お客さまが求めるものを当社自身の手で提供するのか、あるいは、その分野で優れたサービスを提供している企業と連携するのか、一つの型にとらわれることなく、クリエイティビティを発揮した提案を行っていきます。

さらに街への投資という点では、エリアごとの投資利回りについての研究も進めたいと思っています。当社はこれまで、大型再開発を通して私たちが資産を直接持つことから発生するアセットビジネスのノウハウだけでなく、必ずしもアセットに依らない、幅広いプレーヤーとのネットワークを生かした不動産管理運営をはじめとした幅広いフィービジネスのノウハウも蓄積してきました。これらのビジネスが育ってきた今、エリアの特性やお客さまのニーズに応じたフィービジネスや、関連ビジネスのノウハウを組み合わせて別のエリアに広げていく。そのための新たな判断軸を経営の中に取り込み、さらなる成長を目指していく考えです。

長期展望

これからも「住み続けたい街」を目指して

さらに魅力的な沿線への進化に向けて

街の未来を見据えるとき、切っても切り離せない課題として国内の人口減少があります。私は2000年以前からこの社会課題を注視し、その中でいかにして沿線の人口を増やすかについて考えを巡らせてきました。それから20余年、日本の人口は減少し続けています。しかし首都圏に限って言えば、人口流入が継続しているという事実もあります。これを一極集中として弊害的にとらえる向きもありますが、多くの人が集いディスカッションを通じてクリエイティビティがいかんなく発揮され、新たな価値が生まれるというプラスの効果も間違いなく存在するはずです

例えば渋谷スクランブルスクエアに、SHIBUYA QWSという多様な人たちが交流し、社会価値につながるアイデアや新規事業を生み出すことを目指した施設を設けました。渋谷にこのような共創の機会や場を集積させていくことで、まだ世の中にない新しい社会価値の創出に挑戦しています。私は、人口という「数」とともに、「価値の集積」にも目を向けたまちづくりを行っていきたいと考えています。そのために必要なことは、沿線の魅力向上です。既存の施設の更新投資や、新たなマンションの供給、移動の利便性を高めるバスとの連携強化などモビリティの向上に加え、生活を豊かにするサービスの創出など、循環再投資を通してまだまだできること、なすべきことがあるはずです。

加えて、「雇用」という面からも沿線の魅力を向上させていきたいと考えています。子育て層や高齢者の皆様が無理のない範囲で働ける場を提供し、社会参画の機会を創出する。雇用機会の豊富さは、選ばれる街の理由の一つです。在住の方のみならず、通勤や訪問、海外からの旅行者も含め、多様な属性の人が集まるまちづくりに、強い覚悟を持って臨んでいきます。

レジリエンスのあるまちづくり

沿線を中心にビジネスを展開する当社は、「住み続けられるまちづくり」を目指しています。今後のまちづくりでは、災害への備えをはじめ、持続可能性を意識した施策が不可欠です。東急線沿線エリア内の木造建築物の多い「木密地域」では耐震性・耐火性が課題となっていきますし、災害時に沿線の皆様が協力して復旧に向かえるような仕組みも構築していかなければなりません。その第一歩として、2023年1月に新潟県と事業継続を視野にいれた包括連携協定を締結しました。新潟県が有する災害対応のノウハウを沿線に導入するとともに、互いの地域が被災したときには復旧に向けてサポートし合う。このような取り組みを通じて、沿線の強靱化を図っていく考えです

 

最後に

孫子の代まで選んでいただける東急ブランドへ

お客さまとの信頼関係を紡ぐ

私たちが一番大切にしていることは、住む、働く、訪れるなど、東急線沿線のお客さまとの間にある信頼関係です。2022年、東急線沿線では、東急百貨店がこのようなポスターを掲出しました。

「この店一番の自慢はこのまちのお客さまです。」

このキャッチコピーには、私たちの想いの全てが込められていると思います。当社の事業成長はお客さまのご満足や笑顔の上に成り立つものであり、お客さまの喜びこそが私たちの喜びといっても過言ではありません。今、従業員には、クリエイティビティの発揮とともに、お客さまにリピーターになっていただくことの重要性を伝えています。さまざまな事業を有機的に融合させ、究極のリピーターともいえる、「孫子の代まで住みたい沿線づくり」を進めていきます。そのために、積極的に現場に足を運び、街を訪れ、お客さまのニーズを肌で感じ取りながら、経営の舵取りを行っていく決意です。

株主・投資家の皆様へ

私は東急リアル・エステート投資法人の運用に従事していた期間、IR活動に注力し、個人投資家から国内外の機関投資家まで投資家層を広げてきたと自負しています。その時の経験から、投資家の皆様と対話に必要なことは、丁寧なコミュニケーションと正確なデータの提供だと考えています。マーケットから強く要請を受けているサステナビリティ関連の情報開示に関しても、当社は早期から対応してきました。まちづくりという事業活動自体がESGやSDGs、持続可能性との関係が深いものであり、TCFDや災害対策も含め、さまざまな場面でサステナビリティを軸とする取り組みを進めています。今後もマーケットの声に真摯に向き合いつつ、同時に当社の考え・方針をしっかりとお示しすることで、ご理解を得ていく所存です。今後とも東急グループをご支援くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。