WikiLeaks創設者のジュリアン・アサンジが司法取引、「報道の自由」をめぐる法廷闘争は終止符へ

WikiLeaks創設者のジュリアン・アサンジが検察当局との司法取引に応じ、1件のスパイ行為に対する有罪を認めることに合意した。機密文書の公開をめぐり「報道の自由」との間で論争を呼んできた法廷闘争に、これで終止符が打たれることになる。
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Photograph: Jack Taylor; Getty Images

内部告発サイト「WikiLeaks」の創設者で長年にわたり苦境に立たされていたジュリアン・アサンジが、米国の検察当局との司法取引に応じた。米国が主導したイラクやアフガニスタンにおける紛争に関連して、機密文書の公表に関与したスパイ容疑1件においてアサンジが有罪を認めるという。

今回の合意は、アサンジ被告(52)が英国からの身柄引き渡しを回避するために10年以上にわたって続けてきた努力によるものだ。そして、これで米国史上で最も長期にわたる国家安全保障をめぐる調査のひとつに終止符が打たれたことになる。この合意は英国で公開された裁判所の文書で初めて明らかにされた。

米国による告発を否定しているアサンジと彼の弁護団にコメントを求めたが、すぐにはコメントを得られていない。「ジュリアン・アサンジは自由になった」と、WikiLeaksはXに投稿した声明で明らかにしている。「彼は1,901日間を過ごした最高監視レベルのベルマーシュ刑務所を6月24日朝に出た」

検察当局が米自治領である北マリアナ諸島サイパン島の連邦地裁に24日に提出した書面によると、アサンジは米国本土への渡航を拒否していたことから、北マリアナ諸島の首都所在地であるサイパンで26日に開かれる審問で有罪を認める予定だという。アサンジは62カ月の刑期を言い渡される見込みだが、ロンドン刑務所ですでにその刑期の服役を終えており、判決が言い渡された後に母国のオーストラリアに帰国する見通しだ。

論点になった「報道の自由」

アサンジに対する訴訟の中心をなす罪状は、盗まれたとされる75万件以上の米国の公文書をWikiLeaksが2009年から11年にかけて公表したことである。この訴訟は報道の自由への影響が明らかだったことから、世界で大きく注目されてきた。

米国のジャーナリスト保護委員会(CPJ)などの団体は長年にわたり、この訴訟が機密情報を入手して公表するジャーナリストの能力を著しく損なう恐れがあると警告してきた。なお、米国の最高裁判所は、ジャーナリストが機密情報を入手する権利を以前から認めている。

ヒラリー・クリントンとドナルド・トランプの間で争われた2016年の米大統領選挙を前に、WikiLeaksは民主党全国委員会から盗まれた大量の電子メールを公表した。このリークで民主党全国委員会は混乱に陥り、アサンジは右派から賞賛を浴びたが、後に「Cozy Bear」と「Fancy Bear」の名で知られる悪名高いロシアのハッカー集団の仕業であることが明らかになった。このふたつのハッカー集団は、ロシア連邦軍における情報機関である軍参謀本部情報総局(GRU)とつながっている。

検察当局は当初、イラク戦争とアフガニスタン戦争に関する機密資料の山をWikiLeaksに提供したチェルシー・マニングと共謀して政府のコンピューターに不正アクセスしたとして、コンピューター詐欺・不正利用防止法(CFAA)に基づく1件の罪でアサンジを起訴した。検察はその後、スパイ活動法に基づく17件の罪状を追加したが、これは報道の自由に対する攻撃として広く非難された

アサンジは7年間の亡命生活を経て、2019年にロンドンの在英エクアドル大使館から強制退去させられた。そして新型コロナウイルスのパンデミックの期間中に何度も延期された身柄引き渡し審問の結果を待つ間に、ロンドンのベルマーシュ刑務所に拘留されていた。アサンジの弁護団は、アサンジの精神状態が悪化していることから、米国への身柄引き渡しは自殺の可能性を高めると主張している。

米国の検察当局は審理のなかで、2022年に収監中に長年のパートナーであるステラ・モリスと結婚した受賞歴のあるジャーナリストであるアサンジの身柄引き渡しについて、英国の裁判所に一連の保証書を提出することで確保した。別の譲歩においては、米国はアサンジを“特別措置”の対象にしないと約束している。この特別措置とは、国家安全保障上の懸念を理由に特定の被告の通話を盗聴する慣行を指す用語だ。

「わたしたちの人生のこの時期は、いまや終わりを迎えたと確信しています」と、ステラは6月19日に録画された映像で語っている。「来週の今ごろには、ジュリアンは自由になっていると思います」

WikiLeaks編集長のクリスティン・フラフンソンは、ベルマーシュ刑務所の外で撮影されたこの映像において、アサンジと塀の中で会うのはこれが最後になることを望むと語った。「皆さんがこの映像を目にしているなら、ジュリアンは釈放されたということでしょう」

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

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内部告発サイト「WikiLeaks」創設者のジュリアン・アサンジの米国への身柄引き渡しについて、英国の高等法院が最終判断を延期した。米国での訴追が合法的なジャーナリズム活動に対する“攻撃”とみなされるなか、アサンジは米国で裁判を受ける可能性を当面は回避できたことになる。

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