AI検索がもたらす“世界秩序の変化”と、「Google 検索」の終焉

グーグルは検索サービスにAIを統合していくことで、その仕組みの再構築を加速させている。そうしたなか、検索におけるAIの台頭という“世界秩序の変化”に、どう対応していくのか。検索部門の責任者であるエリザベス・リードが語った。
Liz Reid
グーグルの検索部門の新たな責任者に就任したエリザベス・リードは、Google 検索とAIの統合を加速させている。Photograph: SAJJAD HUSSAIN/Getty Images

Google 検索」が、よくも悪くも根本的に変わろうとしている。アルファベット傘下のグーグルがもつ人工知能(AI)の壮大なビジョンと一致させるため、そして「ChatGPT」のようなAIの新興勢力との競争に促されたことで、グーグルの主力製品であるGoogle 検索は再構築されてパーソナライズが進み、検索結果はAIによってはるかに要約されたものになりつつあるのだ。

そうした変化について、グーグルの検索部門の新たな責任者に就任したエリザベス・リードが開発者会議「Google I/O」で誇示し、就任から早々に自らの存在感をアピールした(リードはグーグルに20年しか在籍していないが、その間にさまざまな検索製品に携わってきた人物である)。

AIのことがふんだんに盛り込まれたリードのデモンストレーションは、グーグルの基調講演全体を通じて掲げられていたテーマの一部だった。より広範なそのテーマは、最高経営責任者(CEO)のスンダー・ピチャイが先頭に立って主導するものである。すでにAIはグーグルのほぼすべての製品を支えており、グーグルはこの変化を加速させることしか計画していない。

「Geminiの時代には検索を劇的に改善できると、わたしたちは考えています」と、リードは今回のイベントに先駆けて実施された『WIRED』によるインタビューで、昨年末にリリースされた旗艦となる生成AIモデル「Gemini」に言及した。「人々の時間は貴重です。誰もが困難なことに取り組んでいます。テクノロジーによって人々が疑問の答えを得ることを助け、その過程からより多くの作業を省く機会があるのであれば、それを追い求めない理由はありません」

グーグルの新しい検索機能では、ビデオや音声を使って複雑な質問を投げかけることが可能になった。

Courtesy of Google

それはあたかも、グーグルが過去25年にわたって書いてきた脚本の索引カードを掴み取って空中に放り投げ、どこに落ちるのか結果を確認しようとしているかのようだった。その脚本もまた、AIによって書かれたものである。

Google 検索に対するこのような変更は、以前から繰り返されてきた。グーグルは2023年、ユーザーが実験的な新機能を試せる「Search Labs」のセクションのひとつを分割し、「Search Generative Experience」と呼ばれる機能として独立させた。そこから浮かんだ大きな疑問は、それらの機能が一般に利用可能になってGoogle 検索の恒久的な一部になるのかどうか、あるいはいつそうなるのか、ということだった。その答えは「いま」である。

また、検索エンジンに対する今回の全面的な見直しは、検索体験の質が低下しているように感じるという一部の人たちの批判の声がますます高まりつつあるタイミングで実行に移された。それに、マイクロソフトとOpenAIの大規模なマッシュアップによって競争が過熱していることを、グーグルが久しぶりに感じているタイミングでもある。PerplexityYou.com、Braveのような小規模なスタートアップも生成AIの波に乗っており、検索の概念全体を再構築したその方法で(まだ大きなマインドシェアではないものの)注目されている。

高まる「AIによる要約」の存在感

グーグルは、これらの新たな検索機能のためにカスタマイズされたAIモデルの「Gemini」を開発したという。一方で、このモデルの規模やスピード、このテクノロジーに関連して設けた安全保護措置については、情報の共有を拒んでいる。

検索に特化したこのAIモデルは、新しいGoogle 検索を構成する少なくともいくつかの異なる部分に搭載されるだろう。グーグルがすでに実験を進めている「AI Overviews」が、なかでも重要な機能になると考えられる。この機能によって検索結果のトップには、AIが生成した要約が表示されるようになるのだ。

実際に試してみた結果から、その一例を紹介しよう。Google 検索で「わたしがオーロラを見るなら最適な場所はどこですか?」と尋ねると、Google 検索はウェブページをリストアップする代わりに文章で「オーロラを見る最適な場所は北極圏にあります」と説明したうえで、この現象は北極に近い場所ほど活発であることを示した。観光サイトの「NordicVisitor.com」へのリンクも表示されるが、その下にはAIが追加で「オーロラを見るためのほかの場所は、ロシアやカナダのノースウエスト準州などがあります」と解説を続けている。

リードによると、このような「AI Overviews」による要約は、たとえこの機能がもっと利用可能なものになっているとしても、すべての検索結果に表示されることはないという。この機能は、もっと複雑な質問のために用意されたものだ。誰かが検索するたびに、AIが生成した答えを提示するべきか、それとも従来の青いリンクを提示してクリックさせるべきか、グーグルが裏でアルゴリズムによる価値判断をしようとしている。

「あなたがウォルマートのウェブサイトを検索する場合は、ただwalmart.comを開きたいだけです」と、リードは言う。「でも、質問が非常にカスタマイズされたものであれば、この機能を提供することになります」

このAI Overviewsは、週内に米国のすべてのGoogle 検索ユーザーに公開される。リードによると、年末までにさらに多くの国で導入される予定で、10億人以上の人々が検索結果でAI Overviewsを見ることになるという。これはウェブやモバイルなどのすべてのプラットフォームで表示され、アップルの「Safari」などを経由してGoogle 検索を利用する場合には、ブラウザーの検索エンジンの体験の一部としても表示される。

検索結果をAIが“編成”

検索に関連するもうひとつのアップデートは、計画を立てる機能だ。例えば、Google 検索に食事のプランを立ててもらったり、初回割引のあるクラスを提供している近隣のピラティススタジオを探してもらったりすることができる。

Googleによる目を見張るべき検索の未来では、AIエージェントが近くにあるいくつかのスタジオを見つけて、それらのレビューをまとめ、そこまで歩いていくためにかかる時間を表示することが可能だ。これは新興の検索エンジンに対するGoogle 検索の最も明らかな利点のひとつだろう。こうした新しいサービスは、グーグルが保有するレビューや地図データなどの情報の“宝の山”をまったくもたず、リアルタイムかローカルの情報に対してAPIをそう簡単には利用できない。

グーグルがSearch Labsで導入した検索に対する最も“不快”に思える変更は、AIによって編成された検索結果のページだ。これは一見すると、青色のリンクが表示される検索体験を完全に避けているように感じられる。

リードが提供した一例では、ダラス広域エリアで記念日のディナーに行く場所を検索すると、検索結果を簡単に絞り込めるようにするツール「検索チップ」かボタンが上部にあるページが表示される。これには「店内飲食」「テイクアウト」「営業中」といったカテゴリーが含まれる。

その下にはスポンサー付きの検索結果(グーグルは広告を掲載するだろう)が表示され、さらにグーグルが「記念日にふさわしいレストラン」「ロマンチックなステーキハウス」と判断した結果の一覧が表示される。その下には「ダラスはロマンチックな街ですか?」など、検索をさらに微調整するための質問がいくつか提案されるだろう。

AIによって編成される検索はまだ展開中だが、米国では「今後数週間以内」に英語で表示され始める予定だ。強化されたGoogle レンズのような改良されたビデオ検索の機能も同様で、壊れたレコードプレーヤーなどの物にスマートフォンのカメラを向けて、その修理方法を尋ねるようなことが可能だ。

グーグルによれば、検索アプリは近いうちに複雑で多段階のクエリに答えられるようになるという。

Courtesy of Google

こうした新しいAI機能がわかりにくいと感じるなら、かつて地味なテキストボックスだったものに対するグーグルの最新の深遠で複雑とも思われる試みを見逃しているかもしれない。リードは、ほとんどの消費者がGoogle 検索とは単一の存在であると思っているが、実際にはさまざまな方法で検索するさまざまな人にとって多様なものであると考えているという。

「それが、AIによって編成された結果を表示するページへの取り組みに、わたしたちが期待を寄せる理由のひとつです」と、リードは言う。 「例えば、(情報を表示する)スペースについてはどう考えますか? さまざまなコンテンツを欲するという事実はすばらしいことです。しかし、情報を閲覧して消費するという点では、これほど簡単になっているでしょうか」

だが、AI Overviewsを生成し、(それらの概要をいつ表示するのかを決定することで)グーグルは本質的に何が複雑な質問で何がそうでないのかを判断し、AI が生成した概要を提供するウェブコンテンツの種類について品質の判定を下している。これは確かに、検索があなたの代わりに仕事をしてくれる“検索の新時代”だろう。一方で、これはある種の結果を別の種類の結果よりもアルゴリズムが優先する可能性を備えた検索ボットでもある。

「これらのAIモデルを使用した検索で起きる最大の変化のひとつは、AIが実際に情報に基づいた意見のようなものを作成することです」と、SEO対策を手がけるBrightEdgeの会長であるジム・ユーは指摘する。ユーは17年以上にわたってウェブのトラフィックをつぶさに観察し続けてきた人物だ。

「過去20年間の検索のパラダイムは、検索エンジンが多くの情報を引き出してリンクを提供するというものでした。それがいまでは検索エンジンがすべての検索を実行して結果を要約し、形成された意見を提供するのです」

そうすることで、Google 検索の結果のリスクが高まる。ユーザーが必要としている情報が、ユーザーが自らクリックして読むための複数のリンクではなく、ひとつに“凝縮”された回答であるとアルゴリズムが判断するなら、エラーはより重大なものになるだろう。というのも、AIが誤った情報を正しいものとして示してしまう“幻覚”の現象とも、Geminiは無縁ではないからだ。

『The Atlantic』の記者が、Google 検索で「K」で始まるアフリカの国名を検索したときのことである。この検索エンジンは、もともとはChatGPTが生成したテキストの断片(スニペット)を用いて、「アフリカにKで始まる国名はない」と回答したのだ。これは明らかにケニア(Kenya)を見落としている。

また、グーグルの画像生成AIツールは今年初め、ジョージ・ワシントンなどの歴史上の人物を黒人として描いたことで大々的に批判された。これを受けて、グーグルはこのツールを一時的に停止している。

「世界秩序の変化」がやってくる

グーグルによるAI検索のアップデートされたデザインでは、結果を表示するページにあった有名な「10個の青いリンク」が後方に押しやられ、最初の広告と情報ボックスがページの上部に優先表示されるようになった。今後はAIが生成する概要とカテゴリーが、検索領域の大きな部分を占めるようになるだろう。ウェブのパブリッシャーやコンテンツ制作者は、当然ながらこうした変化に神経をとがらせている。

調査会社のガートナーは今年初め、今後はAIモデルがより直接的な回答を検索・生成するエージェント主導型の検索手法が定着していき、2026年までに従来型の検索エンジンによる検索の量は25%減少するだろうとの予測を公表した。

「従来の検索エンジンにおけるユーザーのクエリに代わり、回答のエンジンとして生成AIのソリューションが台頭しつつあります」と、ガートナーのバイスプレジデントでアナリストのアラン・アンティンは、報告書に添えた声明で指摘している。「こうした動きによって企業は、マーケティングチャネル戦略の再考を迫られることになるはずです」

こうした動きはウェブにとって何を意味するのだろうか。「世界秩序の変化です」と、BrightEdgeのユーはいう。「わたしたちはいま、AIがすべての検索を変えていく瞬間に立ち合っているのです」

BrightEdgeは8カ月前、検索したユーザーがAIが生成した結果にウェブ上で触れるときに何が起きるかをモニタリングする「生成パーサー」と呼ばれるシステムを開発した。ユーによると、グーグルが生成AIを用いた検索の実験段階にユーザーに尋ねていた「AIが生成した回答が必要ですか」という質問を過去1カ月間で減らし、AIによる回答が必要と想定する頻度が増えたことが、パーサーの検知結果から明らかになったという。「これはAIが生成した検索結果の選択をグーグルがユーザーに促す代わりに、検索の際にAIが利用されるようになると確信したことを示していると考えられます」

検索にまつわる変化は、グーグルの収益の大半を占めている広告事業にも大きな影響を及ぼす。最近の四半期決算説明会でCEOのピチャイは、生成AIを用いた実験の収益を広く公開することを拒否していた。

しかし、以前の『WIRED』の記事でも指摘していたように、検索したユーザーに対してより直接的な回答を提供すると、「より詳細な検索を追加で実施する時間が減少し、ひいては検索広告の表示機会が減る可能性がある」だろう。表示される広告の種類も、グーグルの生成AIツールと共に進化する必要があるのかもしれない。

このような変更が展開されても、グーグルはウェブサイトやクリエイター、小売り事業者へのトラフィックを優先すると説明している。だが、具体的にどうするのかはまだ明らかにしていない。

バラ色のビジョン

グーグルのリードはGoogle I/Oに先立って開かれた説明会で、「AIが生成した概要以外のリンクもユーザーはクリックすると思うか」と質問された際に、次のように答えている。「ユーザーが検索内容をさらに深く掘り下げていく様子を(グーグルは)実際に目の当たりにしてきました。人々は最初にAI overviewsを確認し、それからウェブサイトへのリンクをクリックしていくのです 」

そのうえでリードは、ユーザーはこれまで最終的に求める情報が記載されたウェブサイトにたどり着くまであちこち探し回る必要があったが、今後はグーグルが選んださまざまなウェブサイトから答えを抜粋して組み立てるようになるのだと説明する。

グーグルの本社に漂うハイブマインド(集合精神)のなかで、探求心はまだまだ呼び起こされるのだろう。「(人々は)検索をより頻繁に利用するようになり、それによって貴重なトラフィックをウェブに送出する機会も増えることでしょう」

これは検索の未来に対するバラ色のビジョンであり、「AIが生成した短い回答を得たユーザーは、アイデアをより深く掘り下げるためにもっと時間を費やすようになる」という考えに基づくものだ。Google 検索は依然として世界中の情報をすぐに届けることを約束しているが、誰が実際にキーを叩いているのか、もうわからなくなりつつある。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるグーグルの関連記事はこちらGoogle I/Oの関連記事はこちら


Related Articles
Google CEO Sundar Pichai takes to the stage at the Google I/O developer conference
グーグルが開発者会議「Google I/O」の基調講演で発表した内容はAI一色だった。マルチモーダルなチャットボットから新しいAI検索機能、Google WorkspaceとGeminiの統合まで、注目すべき7つのポイントを紹介しよう。
Google Android mascot and screenshots
グーグルの開発者会議「Google I/O」では、AIを活用した新機能が次々に発表されている。モバイルOSであるAndroidには、今後どのような進化がもたらされるのか。グーグルの幹部ふたりに尋ねてみた。
Demis Hassabis, chief executive officer of DeepMind Technologies Ltd.
グーグルが次世代AIアシスタント「Project Astra」を開発者会議「Google I/O」で発表した。人間と自然���対話し、テキストや音声、画像、動画にも対応するマルチモーダルなAIは、OpenAIの「GPT-4o」を用いたChatGPTに対するグーグルの“回答”でもある。
Photo of presenters at the  OpenAI's event
OpenAIが新しいAIモデル「GPT-4o」を発表した。この新しいモデルで「ChatGPT」が動作することで、チャットボットとのスムーズかつ自然な音声会話が実現するという。その様子は、これまで以上に“感情”が豊かで人間を思わせるものだ。

雑誌『WIRED』日本版 VOL.52
「FASHION FUTURE AH!」は好評発売中!

ファッションとはつまり、服のことである。布が何からつくられるのかを知ることであり、拾ったペットボトルを糸にできる現実と、古着を繊維にする困難さについて考えることでもある。次の世代がいかに育まれるべきか、彼ら/彼女らに投げかけるべき言葉を真剣に語り合うことであり、クラフツマンシップを受け継ぐこと、モードと楽観性について洞察すること、そしてとびきりのクリエイティビティのもち主の言葉に耳を傾けることである。あるいは当然、テクノロジーが拡張する可能性を想像することでもあり、自らミシンを踏むことでもある──。およそ10年ぶりとなる『WIRED』のファッション特集。詳細はこちら