米国で新たな肥満症治療薬「ゼプバウンド」が承認、減量を望む人に新たな選択肢

新たな肥満症治療薬「ゼプバウンド(Zepbound)」が、米国で新薬として承認された。これにより、減量を望む人に新たな選択肢がもたらされたことになる。
weight loss drug
Courtesy of Eli Lilly

肥満症治療薬としてブロックバスター(大型新薬)となった「ウゴービ」に、新たなライバルが現れた。米国の製薬会社であるイーライリリーが製造する肥満症治療薬「ゼプバウンド(Zepbound)」を、米食品医薬局(FDA)が新薬として11月8日(米国時間)に承認したのである。

ゼプバウンドは週1回の注射による投与が必要な薬剤だ。過体重か肥満で、高血圧や2型糖尿病、高コレステロールなど体重に関係する疾患を少なくともひとつもつ成人への投与を意図している。このゼプバウンド(一般名チルゼパチド)の有効成分は、2型糖尿病の成人患者の血糖値改善を助ける効能をもつ「マンジャロ(Mounjaro)」としてすでに承認されており、広く適応外処方されてきた

ゼプバウンドとマンジャロは、デンマークの製薬会社であるノボ ノルディスクが手がけた有名なウゴービや糖尿病治療薬「オゼンピック(Ozempic)」に似た製剤である。これらの製剤はすべて、体内で自然に分泌される「GLP-1」というホルモンをまねた仕組みだ。

腸でつくられるGLP-1は血糖値を下げ、摂取した食物の胃からの排泄を遅らせて食欲を調節する。ゼプバウンドとマンジャロもこれに似た「GIP」というホルモンに作用し、食物の摂取を減らすように作用する。

年内にも米国で販売開始へ

GLP-1製剤は、当初は2型糖尿病の治療薬として開発された。それを減量目的で使用する例が増えている(ウゴービは減量に、オゼンピックは糖尿病に適応があるが、オゼンピックは減量目的で適応外使用されることがある)。なお、米国人の成人の約70%が肥満または過体重であり、過体重の人の多くは体重に関連した疾患をもっている。

こうした製剤への需要の高まりから、オゼンピックとウゴービは2022年3月からFDAの不足医薬品リスト入りしている。需要に生産が追い付かないことから、ノボ ノルディスクはウゴービの投与を新たに受けられる患者の数の制限を試みている状況だ。

ウゴービは異なる投与量が充填されたペン型注入器として提供され、患者はまず低用量から開始して徐々に用量を上げていく。ノ��� ノルディスクは生産能力の拡充に取り組みながら、既存の患者に注力できるよう低用量注射剤の供給を制限している。

FDAがゼプバウンドを承認したことで、減量を望む人に新たな選択肢がもたらされたことになる。オゼンピックやウゴービと同様、ゼプバウンドも最初は低用量から始めて徐々に用量を上げていく。

イーライリリーによるとゼプバウンドは、肥満または過体重で糖尿病を除く体重関連の疾患を有する成人2,539人を対象に実施した臨床試験に基づいて承認された。臨床試験では、ゼプバウンドを投与されると同時に食事・運動面を変えた患者は、プラセボ群に対して72週間で著しい体重減少を示している

例えば、ゼプバウンドを最高用量の15ミリグラムを投与された人は平均48ポンド(約22kg)の減量を示した。最低用量の5ミリグラムを投与された人の体重減少は平均34ポンド(約15kg)である。プラセボ群では平均7ポンド(約3.2kg)の減量となった。

イーライリリーによると、ゼプバウンドを最高用量で投与された患者の3人に1人は体重の25%相当の58ポンド(約26kg)以上の減量となったが、プラセボ群の減量は体重の1.5%だった。ボランティア被験者の臨床試験開始時の平均体重は231ポンド(約105kg)である。

なお、イーライリリーによると、ゼプバウンドを投与された患者の一部からは吐き気や下痢、嘔吐、便秘、腹痛等の消化器反応が報告された。

イーライリリーの声明には、ゼプバウンドは米国で1カ月あたり1,059.87ドル(約16万円)のリストプライス(業者希望価格)で年内に販売開始となる見通しだと書かれている。ウゴービの価格は保険適用がなければ1カ月あたり約1,349ドル(約20万4,000円)だ。

糖尿病治療は通常なら保険の対象となるが、減量目的の薬剤は対象とならない可能性がある。イーライリリーの発表によると、ゼプバウンドを役立てられる患者が利用しやすくなるように、「コマーシャル・セービング・カード・プログラム」を導入するとしている。

製薬会社は、すでにGLP-1製剤の錠剤タイプの開発に取り組んでおり、実現すれば患者にとっての魅力がさらに高まるかもしれない。今週末に開催されるアメリカ心臓協会の学術集会では、これらの製剤の心血管への効果に関する新データが発表されることが期待されており、そうなれば需要はさらに高まる可能性がある。

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

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