サイクリングに登山、メンタルヘルス関連機能まで。「watchOS 10」で追加されるアップデート

アップルは開発者会議「WWDC 2023」でApple Watch用のソフトウェアアップデート「watchOS 10」を発表した。サイクリングやランニングに特化した新機能から操作性の改善に至るまで、さまざまな部分がアップデートされている。ここでは進化した4つの主な機能を紹介する。
Apple Watches in various colors
Photograph: Apple

アップルが「Apple Watch Ultra」を発表したのは2022年のことだ。フィットネスに特化したこのウェアラブルデバイスは、アップルがアウトドア向け高級ウォッチ市場でガーミンと競うための製品だった。しかし、Apple Watch Ultraはユーザーの期待に十分に応えられるものではなかった。たとえばバッテリーはギリギリ3日もつ程度で、これではバックパッカーの小旅行にさえも足りない。

しかしアップルは諦めていない。同社は先日の開発者会議「WWDC 2023」で「watchOS」の新バージョンである「watchOS 10」を発表した。このバージョンには、ガーミン製品が支配的な分野に進出することを強く意識した新機能が搭載されている。

もちろんこのほかにも、画面の操作性が改良されていたり、アプリの設計が見直されていたり、新しい文字盤が追加されていたりと、いつもどおりのソフトウェアアップデートも発表された。この記事では今回のアップデートで追加される主な新機能を紹介する。

どのApple Watchで使えるのか

アップルのwatchOS 10は「Apple Watch Series 4」以降のモデルで利用可能である。ただし、「iOS 17」を搭載している「iPhone XS」か「iPhone XR」、またはそれ以降のiPhoneが必要だ。所有しているApple Watchのモデルは本体の裏側を見れば確認できる。

いつ公開されるのか

watchOS 10は現在、開発者向けベータ版のみが提供されており、パブリックベータ版の公開は7月を予定している。その時点でwatchOS 10を試すことはできるが、いくらかバグが残っている可能性はある。ベータ版の提供は秋まで続き、最終版の公開は9月になる見通しだ。


watchOS 10の主な新機能

watchOS 10に登場する主な新機能を紹介しよう。すべての新機能について詳しく知るには、アップルのプレビューページを確認してほしい。

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サイクリング機能のアップデート

アップルがアウトドアアクティビティに焦点を当て始めたのは、2021年発売の「Apple Watch Series 7」からだ。いままで以上の防塵性能を備え、転倒検出機能を改良し、ワークアウト時に乗っているのが電動自転車か通常の自転車かを自動検出できるようになった。22年に公開した「watchOS 9」では上下動や歩幅の測定など、ランニング専用の機能も搭載している。

今度のアップデートにより、Apple WatchとiPhoneの組み合わせは自転車用ツールにもなる。これさえあれば専用のサイクルコンピューターなど要らなくなるかもしれない。

watchOS 10をダウンロードし、Apple Watchでサイクリングのワークアウトを開始すると、すぐに「ライブアクティビティ」としてiPhoneにも表示される。これをタップすると、心拍数の範囲や走っているルートといった重要な情報を表示する「ワークアウトビュー」が全画面で表示される。スマートフォンをハンドルバーに取り付ければ、適切な心拍数の範囲内で運動できているかを確認でき、道に迷わずに済むようになるのだ。

またwatchOS 10により、Apple WatchはパワーメーターやケイデンスセンサーといったBluetooth対応の自転車用アクセサリに自動接続するようになる。これにより毎分のケイデンス(RPM)などの数値をApple Watchやワークアウトビューで確認できる。加えて、こうしたデータを使用してユーザーのFTPも計算できるようになる。FTPとは1時間持続できる最大の運動量を示す指標である。

Apple Watchはユーザーがワークアウトに励んでいる間に、FTPのデータを使用してパーソナライズされたパワーゾーンも算出してくれる。パワーゾーンを用いたトレーニングはやや複雑であるが、基本的には強度の低いゾーンは持久力、強度の高いゾーンはパワーの強化に役立ち、このふたつのゾーンを切り替えながらトレーニングすることでパフォーマンスを調整できるものだ。

FTPはニッチな指標であり、大きなパフォーマンスを発揮したいイベントに備えるアスリートによって使われることが多い。ランニングにしても水泳にしてもサイクリングにしても、FTPはトレーニング中の特定の時間帯に特定の形式で算出される。「Apple Fitness+」を使えば、パーソナライズされたデータをすべて使用し、自分だけのワークアウトの計画を作成することもできる。

Photograph: Apple

ハイキング機能のアップデート

昨年発売された「Apple Watch Ultra」は、アウトドアアクティビティに向けた新たなナビゲーション機能を搭載していた。しかしこれには大きな欠点がひとつあった。オフラインで利用可能な地図もなければ、地形図も見られなかったのである。

watchOS 10は新たに米国の地形図を追加する(またiOS 17ではiPhone上で地図をオフライン利用できるようになった。これを使ってApple Watchで詳しい道案内を確認することもできる)。コンパスアプリには高度が表示され、保存したウェイポイント(経路上の地点情報)の3次元表示にも対応する。これらのウェイポイントには、自動的に生成される2つのウェイポイントが含まれている。ひとつはメッセージの確認や通話に使える「モバイル通信に接続できる最後の地点のウェイポイント」、もうひとつは緊急で助けを呼びたいときに役立つ「緊急電話に発信できる最後の地点のウェイポイント」だ。

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心と目の健康を守る機能

大人にとっても子どもにとっても、屋外でたくさんの時間を過ごすことは(具体的には80分から120分程度)、心と身体の健康によい影響があることがわかっている。そこでアップルはwatchOS 10に「Time in Daylight」という新機能を搭載する。これはApple Watchの環境光センサーを使って、ユーザーが日光の下で過ごした時間を計測するものである。

この機能では自身のデータをiPhoneやiPadで見るだけでなく、子どもたちが外でどれだけの時間を過ごしたかも把握できる。子どもたちもApple Watchをもっているなら、「ファミリー共有設定」の「ヘルスケア共有」を使って、十分な時間を屋外で過ごしたかを確認できる。

またApple Watchの「マインドフルネス」アプリでは、そのときどきの感情を記録するためにさまざまな図形を提案し、その感情の原因となっている要素を特定する機会を提供する。アップルによると、これには臨床でも使われるうつ病と不安障害に関する評価軸が活用されており、Apple Watchがユーザーのリスクレベルを判定し、専門家に相談すべきかどうかを判断することができるという。

Video: Apple

ソフトウェアとデザイン面でのアップデート

Apple Watchはスマートウォッチのなかでも最も人気があり、操作も簡単だ。しかし改善の余地がないわけではない。小さな画面のなかでいろいろなデータを参照するのは依然として難しく、イライラすることもある。watchOS 10ではこうした部分も多少改善される。「スマートスタック」上でウィジェットをめくるように目当てのものを探せるのだ。ウィジェットをスクロールするにはデジタルクラウンを回すだけでいい。 

それでも目的のものが見つからないときのために、アップルは機械学習を使ってそのときどきで最も関連性の高いウィジェットをスマートスタックの上位に表示するようにしている。たとえば旅行中であれば、搭乗券が一番上に表示される。

アプリに関しても、画面をより効果的に活用できるよう設計を見直している。たとえば「世界時計」アプリでは、スクロールして海外にいる友人に電話するのに適切な時間がわかるようになった。また、サイドボタンを押すだけでコントロールセンターを呼び出せるようにもなっている。

Photograph: Apple

iOS 17と連動する細かなアップデートはほかにもある。そのひとつが「NameDrop」だ。これは自分のApple Watchを他人のiPhoneやApple Watchに近づけることで連絡先を共有できる機能である。また、薬を服用するタイミングをリマンイドする機能や、「FaceTime」のメッセージをApple Watchで見る機能なども搭載される。

最後に、毎年のwatchOSアップデートで多くの人が期待している文字盤の追加もある。新しい文字盤の「パレット」は時間が進むにつれて色が変わる。それからスヌーピーとウッドストックが登場する文字盤も追加される。スヌーピーとウッドストックが時計の針と連動して動いたり、互いに遊んだり、ユーザーが雨に濡れると一緒に濡れたり、ユーザーと一緒に運動したりする。ただし、スヌーピーのFTPは表示されない。

WIRED US/Translation by Nozomi Okuma)

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