「Apple Watch」を巡る特許紛争、アップルは“血中酸素センサーなし”のモデルで販売を再開へ

「Apple Watch」に搭載されている血中酸素飽和度(SpO2)センサーの特許を巡る争いで、アップルは最新モデルの米国での販売を改めて停止する。そのうえで、当面は関連技術を使用しない製品を米国で販売することで対応する見通しだ。
Apple watches are seen on display
Photograph: Michael M. Santiago/Getty Images

Apple Watchの最新モデルが、再び米国で販売停止を求められる事態に追い込まれた。

米連邦裁判所の判決によると、アップルは現行バージョンの「Apple Watch Series 9」と「Apple Watch Ultra 2」の米国での販売を、1月18日(米国時間)の夜までに停止しなければならない。このためアップルは2023年末、このふたつのモデルの販売を一時停止したのだ。

この措置は、Apple Watchの最新モデルに搭載された血中酸素飽和度(SpO2)センサーに使用されている技術の特許を巡る争いが原因である。アップルはこのときの判決を不服として控訴し、裁判所がこの件を検討する間は販売禁止の一時停止が認められていた。

ところが17日になり、米連邦巡回区控訴裁判所が停止期間の延長を受け入れなかったことから、アップルは問題となっているApple Watchのふたつのモデルの販売停止を余儀なくされ、正式な上訴に向けた長い道のりを歩むことになった。この販売禁止措置は1月18日午後5時(米東部時間、日本時間の19日午前7時)に再び有効になる。

これに対してアップルは声明を出し、米国の国際貿易委員会(ITC)による輸入販売禁止の決定に「強く同意しない」としながらも、禁止に従う措置を講じると説明している。具体的には、SpO2センサーを利用していない新バージョンのApple Watch Series 9とApple Watch Ultra 2が、18日(米国時間)朝からアップルのウェブサイトと米国内の小売店で販売される。また、すでに購入済みのセンサー付きApple Watchには影響はないという。

決着するまで1年かかる?

ITCは当初、医療技術企業であるマシモ(Masimo)が21年にアップルを訴えた特許紛争を理由に、このふたつのモデルのApple Watchの輸入を禁止していた。マシモは、光を利用して装着者の血液中の酸素濃度を測定するスマートウォッチ搭載センサーの特許をアップルが侵害していると主張している。

このSpO2センサー技術は「Apple Watch Series 6」で初めて搭載され、Apple Watchの現行モデルであるApple Watch Series 9とApple Watch Ultra 2まで設計に組み込まれている(アップルは新モデルの発表に伴い旧モデルの販売を中止した。このため禁止措置の対象はApple Watch Series 9と​​Apple Watch Ultra 2のみである)。連邦判事は、アップルがマシモの特許を侵害しているとしたマシモの主張を認める判決を下し、ITCは23年10月にその判決を支持した。

それ以来、Apple Watchの最新モデルの運命は危ぶまれている。判決が下されてすぐ、アップルは輸入禁止に対応するための措置を講じ始め、クリスマス直前にアップルの実店舗とオンラインストアでのApple Watchの販売を停止したのだ。

しかし、Amazonなどのネット通販サイトやアップル以外の実店舗では、クリスマス休暇中もApple Watchは販売されていた。販売の一時停止は数日間にわたって続き、クリスマス後に販売が再開されたが、今週になって再び販売停止となった。

アップルは連邦裁判所に上訴する予定だが、その行方が決着するまで1年かかる可能性があり、アップルが勝訴する保証はない。その間、SpO2センサー技術を搭載したApple Watch Series 9と​​Apple Watch Ultra 2を販売することはできない。

アップルは、ソフトウェアアップデートによって既存モデルに搭載されている問題のSpO2センサーを無効にする回避策を考え出し、Apple Watchの新モデルの設計をSpO2センサーが一切含まれないようなものに変更した。

ブルームバーグのマーク・ガーマンの記事によると、アップルはすでに再設計した新バージョンのApple WatchをApple Storeに出荷済みで、販売禁止令が発効する場合はその販売を開始するよう指示を出したという。

なお、今回の判決はSpO2センサーが搭載されていない「Apple Watch SE」には影響しない。Apple Watch SEはシリーズで最もコストパフォーマンスが高く、『WIRED』による全モデル完全ガイドでは「多くの人にとって最適な選択肢」と評価している。詳細は記事を参照してほしい。

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるApple Watchの関連記事はこちら


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