【開催レポート】和歌山県と共に築いた「一次生産者に寄り添うEC化支援」-後編-

楽天の地域創生事業部が、和歌山県と取り組んだ「農林水産業デジタルマーケティング総合支援事業」における記事の後編になります。前編の関係者インタビューをご覧になっていない方は、ぜひこちらの記事をご覧ください。

前回記事でご紹介した和歌山県と楽天の取り組みにおける、EC運営ノウハウを学ぶ講座の最終講義が2024年2月に開催されました。今回は、その模様をお届けします。

EC運営の成功例からテクニックだけでなく想いや熱意を学ぶ

講義の第1部では、軽井沢初のクラフトビールを製造する株式会社ヤッホーブルーイング・EC責任者の植野浩樹氏を特別ゲストとしてお招きし、どん底時代を乗り越えファンを増やしていった秘訣を企業ヒストリーとともに語っていただきました。そんな第1部の講義を、ダイジェスト版でご紹介します。

ヤッホーブルーイングは、1997年に長野県佐久市で創業し、「クラフトビールを通じて日本のビール文化を変える」をミッションに掲げています。同社は、「よなよなエール」や「インドの青鬼」など、個性豊かなクラフトビールを提供し、日本のビール市場に新たな風を吹き込んでいます。過去には苦難の時期もありましたが、EC販売の強化によりV字回復を遂げ、19期連続増収を記録しています。お客様との交流を大切にし、ECを通じた独自の取り組みや限定商品の開発に力を入れており、ファンからの支持を背景に成長を続けています。

しかし楽天市場に出店した当時は、ECは開店休業状態だったそうで、社内にもEC運営できるような人材もいない状況でした。そこでECを基礎から学び直すべく、当時の担当者は楽天大学(出店店舗向けにEコマースのノウハウを提供する学習ポータルサイト)で講座を受講するために本社のある長野から東京に通い、トップページの作り方、メルマガの書き方などEC運営のノウハウを学ぶことを通じて、少しずつEC運営を軌道に乗せることで、次第に商品も売れるようになったそうです。

特に、植野さんが参加者に向けて強調されていたのは、基礎から目を背けず、モール理解、仕組み理解、お客様理解を徹底的にやっていくことが大切さでした。また、ECの有用性を販路開拓としてだけでなく、ファンとの直接の接点の一つであると話されていたのも印象的です。「店頭で購入できなかったファンにECを通じて届けられるようになり、うれしいことに“おいしい”や“ビールの価値観が変わりました”といったお客様からの声もたくさん届きました。喜んでくれる・応援してくれるお客様がいる。その声が直接私たちに届く。ECを通じて、ビールメーカーとしての自分たちの存在意義を実感しました」と語りました。

また最後に植野さんは「 “日本をもっと楽しく、幸せにしたい!!”と、私たちは本気で思っています。その手段が私たちにとってはクラフトビールで、実行できる最高の場所の一つがECだと思います。レビューやメルマガでお客様と双方向のコミュニケーションがとれる、しかも購買を通じたコミュニケーションができる。ECを盛り上げることができれば、日本をもっと楽しく幸せにできると本当に思います。」と話を締めくくり、参加者からは大きな拍手が送られました。

株式会社ヤッホーブルーイング・EC責任者 植野浩樹氏による講演

参加者から多くの質問が飛び交ったトークセッション

第2部は、本事業のECノウハウ講座の専任講師を務めた酒匂氏と、植野氏によるトークセッションがスタート。事前アンケートで参加者から集まったEC運営の質問についてお二人の見解をお話しいただきました。多くの質問が飛び交った質疑の中で、本記事ではいくつかピックアップしてご紹介します。

――商品ページなどのレイアウトや構成で工夫していることはありますか?

植野: EC運営には正解というものがなくて、今そのやり方が最善でも、半年後には変わりますよね。それを踏まえたうえで、お客様が買いたいと思った時に購入できる位置にあることがいいのではないかなと思います。ページにたどり着いてすぐ買いたいお客様もいれば、商品ページの情報をページ下部まで見て購入するお客様もいらっしゃいますので、購入したいと思った時にページの上部もしくは下部にスクロールさせる手間をかけさせないようにするなど。もちろん商品ページをしっかり見てもらいというからページ下部のみに設置するという考え方もあります。ページに訪れてくださったお客様の目線に立って、自分がEC利用者だったらどんな行動をするかを常に考えるようにしています。

酒匂: 「使いやすさは美しさに勝るが、好き・愛は使いにくさを超える」ですよね。例えば有名キャラクターのページはものすごく重たいですが、それでもファンの人たちは見てくれる。(商品ページの)美しさだけにとらわれてしまったり、奇をてらったりすることもありますが、まずは好きになってもらう意識を大切にしていただきたいです。また、自社ECサイト立ち上げ時のアドバイスとしては、いきなり大きなものを作りすぎないことです。

よくある失敗で大きな制作会社にECサイトを依頼すると、良かれと思ってたくさんのカテゴリーページを用意してくれたのに、遷移するとComing Soonのままなっているサイトよく見かけませんか?自社ECサイト立ち上げる前にどういうブランディングにしたいのか、どういうお客様に来てほしいのか。どういう商品をどこに置きたいのか。

――売り上げを上げる方法の中で、特に御社が注力しているポイント、施策などあれば伝授してほしいです。

植野: 個人的には、新規商品を作る前に、まず既存商品の改善に注力すべきだと思います。よくバケツの水漏れで例えるのですが、小さな穴がたくさん開いたバケツに水をいっぱい入れても水漏れで貯まらないですよね。それと同じで、既存商品に手がかけられていなく、売れない理由もわかっていない。既存商品にたくさん誘導しても購買につながっていない状態もそれと同じです。まずは既存の商品がなぜ売れていないのか、ちゃんと見直すことができるとよいのではないかと思います。水漏れの原因になっている穴を一つずつふさいでいく。それをやっていくと1個のちゃんとしたバケツができるので、そのノウハウを生かして新しいバケツを用意する。穴の開いた状態で新規商品をたくさん増やしても、手当の方法もわからず穴が増えてしまうだけなので、まずは既存商品を見つめ直す方がいいのではないかと思います。

最初にすべきは、誰がなぜ買ってくれているのかを定期的に見続けることです。そして、購買を通じてもっとお客様に好きになってもらうことです。私たちは、お客様に定期的にアンケートをしていて「好き=ぞっこん度」という指標を見ながら、どれだけぞっこんになってもらえているか(笑)。どうやったらもっと高めていけるのかをとても意識しています。お客様のぞっこん度と購買状況には相関関係があり、ものすごく好きなお客様はたくさん買ってくださっています。

酒匂: その「ぞっこん度」を高めていくために、お客様とどれだけ接点を持ち続けられるかが大事ですし、そこがヤッホーブルーイング様の強みですよね。僕自身もファンなのでアンケート回答していますが、質問数がまあまあ多いんですよ(笑)。何十問もある設問をお客様は回答しているので、「ぞっこん度」に信頼性があるのではないかと思います。お客様との接点づくりが原点にして王道だったりしますよね。

参加者からの質問に答える植野氏と株式会社ユウキノイン酒匂氏

半年間におよぶEC化支援事業が閉幕

約2時間半にわたる最終講義を経て、最後に受講修了式が行われました。

和歌山県食品流通課・鷲岡氏より「皆さんお一人ひとりが半年間努力されて進んでこられたこと、県としてもこれほどうれしいことはありません。受講生の皆様と一緒に和歌山のファンづくり・幸せづくりを広げていきたいと思います。」と温かい言葉をいただき、半年間にわたる「令和5年度農林水産業デジタルマーケティング総合支援事業」は参加者の皆さんの笑顔に包まれて閉幕しました。

最後に今回の支援事業に参加いただいた方々からの感想を一部ご紹介します。

・EC運営にあたり、最後はやはり人と人のつながりが事業を伸ばしていくための原動力となることを確認できました。 まだまだ小さくても一人ひとりの顧客を大切に想いながら、EC運営、全体的な運営をしていきたいと思います。

・今回初参加でECに不慣れな私でも、とてもわかりやすく頭の中にするする入ってきました。    SNSやモールの運営を売り上げ促進のために色々考えるが、1番大切なことはお客さんに愛される店舗を作ること。その前提を改めて思い出すことができ受講してよかったです。

・毎回の講義を受け、自分の課題とやらなくてはならないことがはっきりします。 顧客を大事にする。色々と取り組んでみて、試してみた結果まずはコンテンツをしっかりさせるということでSNSを徐々に動かしながら、自社サイトでのブログとコンテンツを埋め、自社サイトの再構築を図ることが必要と考えています。現状Xは動かし始めました。そのうえで動画撮影を定期的に加工班が行うということを計画として始めています。少しずつできる部分から進められればと思っています。ありがとうございました。


今回、和歌山県と楽天の地域創生事業は、「一人の百歩より百人の一歩」をコンセプトとして掲げ、参加者の皆様が自分たちの意志で手を動かし、しっかり自走するための一歩を踏み出すきっかけづくりになるよう、この半年間EC支援に尽力してきました。

また、今後の地域創生事業の活動にぜひご期待ください。

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