見えないものは“存在さえしなくなる”ゲーム『CASSETTE BOY』の、新鮮な謎解き遊び。アイデアのきっかけは開発者の「寝る前の習慣」だった

 

CASSETTE BOYは、株式会社ワンダーランドカザキリが製作中のアクションRPGだ。対応プラットフォームはPC(Steam)/Nintendo Switch/PS5で、2024年内の発売を予定している。本作の特徴は、視点を回転して物の存在状態を変えることができる“シュレディンガーシステム”。 視点を傾けることで画面上から見えなくなったものは、一時的に存在が消滅するというものだ。なおシステムの名称はシュレディンガーの猫という有名な思考実験(箱の中の猫が存在する/しない状態が共存する)から取られている。

本作はTOKYO SANDBOX 2024に出展されており、最初のボスまで遊べるデモ版がNintendo SwitchおよびSteam Deckで試遊できた。

立ち上がりは街の人と会話をしたり、武器となる剣を手に入れるなど、オーソドックスなアクションRPG。そしてストーリーが進み、主人公の飼い猫が失踪。その飼い猫を探すために冒険に出る、というのが本作のおおまかなあらすじとなっている。

ゲームを進めていると、視点を傾けられるアイテムを入手。ここからがいよいよ本番だ。“シュレディンガーシステム”により、視点を傾けて壁や障害物で敵や物をさえぎってしまえば、それらは視界に映らない限り一時的に存在しないものと見なされる。なんとも奇妙な感覚だ。視点の自由さを逆手に取った本作のシステムは、一見すると不自由なものにも思えるが、プレイ感は意外と新鮮だ。

プレイヤーが踏み続けないと扉が閉まってしまうスイッチは、踏んだあとに視点を変えて“存在を消して”しまえば、その場を離れても扉は開いたまま。しかし、うっかり視点を戻して再びスイッチが見えてしまうと、スイッチを踏まない限りは扉が閉まってしまう。敵が多い場合は、一時的に消して倒すと楽になり、道を通せんぼする人物は見えなくすれば素通り。いかに進めなさそうな場所でも、文字通り視点を変えて環境に手を加えて攻略ができる。まるで古いゲームのシステムの穴を突いて、好き放題しているかのような爽快感だ。

 


試遊版で実装されていた謎解きは序盤ということもあり、比較的シンプルなものであった。それでも新鮮で面白かったものの、試遊版の範囲ではシュレーディンガーシステムのポテンシャルはま��発揮されきっていないのではないかと感じたのも事実だ。ボス戦では視点を回し続けるギミックもあり、アクションの激しさも相まって筆者は少し目が回りそうになった。ゲームプレイの充実や、プレイアビリティといった細かい点などは、今後の開発で作り込まれてゆくのだろう。


本作を手がけるのは、秋葉原に拠点を置く株式会社ワンダーランドカザキリ。Webデザインやシステム開発をするかたわらで、ゲームも作っている会社とのことだ。『CASSETTE BOY』の着想やインスピレーション、本作にかける思いなど、ブースにてさまざまなお話を伺ってきた。

──自己紹介をお願いします。

譽田潔(以下、譽田)氏:
株式会社ワンダーランドカザキリでゲームを作っている譽田(ほんだ)と申します。普段はホームページを作ったり、ウェブのシステム開発などをしていますが、もともとはゲームが作りたくて立ち上げた会社です。通常業務と並行して、『BQM ブロッククエスト・メーカー』や『ダンジョンに捧ぐ墓標』などのゲームを製作しました。そうして何本か作っていくうちに、多少は収入になったので現在はゲームをメインで作っています。会社とはいえ、社長の私が一人で作ってるので個人開発みたいな形態です。

──本作はどういった部分が量子力学から影響を受けているのでしょうか。

譽田氏:
実は、寝る前にYouTubeで宇宙にまつわる動画を見るのが好きでして……(笑)。宇宙の話が大好きで、考えているだけでワクワクしてしまうんです。宇宙は星があって、銀河があって、さらにその上の銀河団があって、とんでもなく規模が大きい。なのに、人間ってちっぽけで、それがいいなあ、とも思います。そういう動画を片っ端から見ていたら、量子力学の話に出会いました。量子力学に関しては素人なんですが、知らないだけに動画を見たり調べたりするのが楽しくてしょうがないです。

量子力学にまつわる話の一つに、パラレルワールドがあります。ですので、前作の『ダンジョンに捧ぐ墓標』には、パラレルワールドのイメージからローグライクのダンジョンという要素を取り入れました。

『CASSETTE BOY』も量子力学からさまざまなヒントを得ています。そうして作りたいと思ったのが、シュレディンガーの猫をヒントにした「シュレディンガーシステム」です。ほかにもギミックに宇宙や重力をからめるアイデアもありますが、現在まだ試行錯誤中です。また、ネタバレになっ��しまうため詳しくは言えませんが、ストーリーにも量子力学からヒントを得ています。大切なものであっても隠れるといなくなる、というのを少し切なく描ければと思っています。

──『CASSETTE BOY』はどういった作品からインスピレーションを受けましたか。

譽田氏:
元を辿ると、子供の頃にPCで遊んだ『ハイドライド』がインスピレーションのもとになっていると思います。お墓を押したら階段が出てくるとか、川が干上がって歩けるようになったとか、とにかくワクワクがいっぱい詰まっているゲームです。本作も、謎を解いたりアイテムを手に入れて次のステージに進む、という流れは『ハイドライド』のような感覚を目指しています。

『ハイドライド』のような作品の常識や古典的なギミックを汲みつつ、視点を操作しないと解けないというひねりを足そうと思いました。ボクセルのグラフィックや、アニメーションフレームの少なさも、そうした古いゲームを意識して作っています。

ちなみに、『CASSETTE BOY』というタイトルは、開発初期にカセットの再生と巻き戻しをギミックとして考えていたためです。

『ハイドライド』PC-88版(Image Credit:MobyGames

それと、本作は『ゼルダの伝説』や『FEZ』に似てるとよく言われます。もちろんどちらも好きな作品ではあります。ですが、『CASSETTE BOY』は3D空間の世界で、視界が重要な役割を持つといった独自の要素もあるため、別作品という認識で製作しています。実際に本作を遊んでいただいた時に、他作品との違いがはっきりと分かるゲームにしたいと思っています。ただ、「ゼルダやFEZっぽい」と興味を持っていただけるのは嬉しいです。

──本作に興味を持ったユーザーに何か一言お願いします。

譽田氏:
開発途中ではありますが、今までにない、誰も見たことのない楽しいゲームを目指して作っています。眠っているアイデアも入れていって、ワクワクする冒険が作れたらいいなと思います。冒険もののアクションRPGが好きな人に遊んでいただけたら嬉しいです。

──ありがとうございました。

『CASSETTE BOY』はPC(Steam)/Nintendo Switch/PS5向けに2024年内に発売予定。